ProtoA
2026年8月3日 09:45

子どもの声から始まる、宮古島の条例づくり

子どもの声から始まる、宮古島の条例づくり

「熱がなければ大丈夫って決めつけられる」「お姉ちゃんだからって言われて、やりたいことを止められた」

7月26日、宮古島市役所のある一室で、子どもたちがすごろくを片手に、こんな「なんでやねん」を持ち寄っていました。大人も混じって、うんうんとうなずきながら聞く。これが、宮古島市で始まった「子どもの権利と子育て支援に関する条例(仮称)」づくりの、最初の一歩です。

ProtoAの砂川綾香も、このプロジェクトに制作・広報の担当として関わっています。今日は、このプロジェクトが「なぜ」始まり、「何を」目指し、「どうやって」進んでいて、「いつ」形になるのかを、できるだけシンプルにお伝えします。


なぜ、条例をつくるのか

宮古島市はかつて「子どもが多い島」でした。平成28年の合計特殊出生率は2.32で、全国平均(1.44)や沖縄県平均(1.95)を大きく上回っていました。ですが令和3・4年には1.92まで下がり、減少に歯止めがかかっていません。

出生率だけの話ではありません。核家族化が進み、育児の悩みを一人で抱え込む保護者が増えていること。学童保育や子どもの居場所が足りていないこと。ひとり親家庭が経済的な不安を抱えやすいこと。そして離島という地理的な条件から、子どもたちが触れられる文化やスポーツ、進学の選択肢がどうしても限られてしまうこと。

これらの課題は、個別の施策を積み重ねるだけでは解決しきれません。「子育ては家庭の責任」「子どもは大人の指示に従うもの」という考え方そのものが変わらない限り、支援の網からこぼれ落ちる家庭は生まれ続けてしまう。そして子ども自身が「自分には意見を言う権利がある」と知らなければ、必要な助けを自分から求めることもできません。

令和7年4月、嘉数登市長は「宮古島市子育て応援宣言」を発表し、「日本一子育てのしやすい島」を目指すと表明しました。この条例は、その宣言を絵に描いた餅で終わらせず、実際に機能する仕組みにするための土台づくりです。

何を目指しているのか

このプロジェクトの正式名称は「子どもの権利・子育て支援条例(仮称)策定支援委託業務」。宮古島市からの委託を受け、株式会社シグマが中心となって進めています。契約期間は2027年3月26日まで。

目指すのは、子どもの権利条約やこども基本法の理念を、宮古島の実情に合わせて条文にすること。ただし、この条例づくりで一番大切にされているのは「誰がつくるか」です。行政が一方的に条文を用意するのではなく、子どもと大人が対話を重ねながら意見を出し合い、その声を市が条例素案に落とし込んでいく。そういう「市民参加型」のプロセスがとられています。

条例ができることは、ゴールではなくスタート。制定した後も、市民自身の手で運用し、育てていく仕組みをつくることが最終的な目標に据えられています。

ProtoAが担っているのは、この動きを支える「制作・広報・バックオフィス」の部分です。 具体的には、告知チラシやポスターなどの広報素材づくり、会議の資料整理や議事録まとめ、そして何より、市民会議の様子を伝えるブログ記事の執筆です。会議で交わされた言葉を、その場にいなかった市民にも届けること。それがProtoAの一番大きな役割だと考えています。

どうやって進めているのか

この条例づくりの中心にあるのが「市民会議」です。宮古島に住む子ども委員16名、大人委員8名が、同じメンバーで継続的に参加しながら対話を重ねています。

会議の設計にはひとつ工夫があります。子どもと大人は、基本的に別々の場で話し合うということです。大人が同席していると、子どもはどうしても「大人が望む正解」を探してしまい、本音を出しにくくなる。だからこそ、まずは子どもだけの場、大人だけの場を用意し、それぞれが安心して話せる空気をつくった上で、要所で合同開催を挟んで意見をすり合わせていく。この「分離と合流」を繰り返すのが、このプロジェクトの進め方の核です。

第1回市民会議のレポートより

7月26日に開かれた第1回は、条例の中身を話す前に「安心して話せる関係をつくる」ことを目的とした回でした。子ども13名・大人5名が参加し、テーマは「人はみんな大切な存在」。

すごろくを使った対話ツールでは、止まったマスに書かれた「子どもの権利」に関わる出来事について、「自分にも似た経験ないかな」と話し合います。「なんでやねん」のマスに止まると、全員で「なんでやねん!」と声を出すのがお約束。あちこちのグループで笑いが起きる、あたたかい時間になったそうです。

続くミニ講話「基本的人権って?」では、那覇市国場児童館の館長・山崎新さんが講師として、基本的人権や子どもの権利条約の4つの原則(命を守られ成長できること、子どもにとって最も良いこと、意見が聞かれ尊重されること、差別のないこと)を紹介しました。「進路や趣味を頭ごなしに否定された経験がある」という講師自身の話に、うなずく大人参加者の姿も見られたといいます。

グラレコをする室伏長子 (むろふし ながこ)さんの様子

学校のルール、生徒会での意見の伝えづらさ、島特有の進学や遊び場の少なさ——グループごとに出た「なんでやねん」は、世代を超えて共感を呼ぶ声ばかりでした。「知らない人の話が聞けて面白かった」という感想も多く聞かれ、初回にして早くも対話の土台ができ始めている様子がうかがえます。

市民会議はこの先も、学校や子どもの居場所への個別訪問、パブリックコメント、市役所ロビーでのオープンハウス型意見交換会などを通じて、会議に参加していない市民の声も丁寧に拾い上げていく予定です

参加者と山崎新 (やまざき あらた)さんが話している様子

いつ、何が起きるのか

市民会議は約8か月、全15回のペースで進みます。

大きく4つのフェーズに分かれています。7月から9月にかけては、子どもと大人がそれぞれの権利や条例について理解を深める段階。11月から12月は、条例素案づくりが本格的に進む段階。1月には素案の磨き上げ、そして2月14日の第15回で、これまでの成果を子どもと大人が合同で共有し、一区切りを迎える予定です。

会議と並行して、12月ごろにはシンポジウムの開催も予定されており、1月から2月にかけてはパブリックコメントを通じて、より広い市民の声を募る機会も設けられます。

これから

条例ができた後の運用も見据えたこのプロジェクトは、まだ始まったばかりです。ProtoAは今後も、市民会議の様子や子どもたちの言葉を、ブログを通じてできるだけリアルタイムに届けていきます。

プロジェクトの詳しい記録は、宮古島市こどもまんなか市民会議の公式サイトでも公開されています。第1回市民会議の詳しいレポートはこちらからご覧いただけます。

会議後の反省会の様子